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多気筒エンジンの傾向と対策

 友人が直列6気筒エンジンの車を買った。さすがに直6は滑らかに回る、とか考えていたが、ハタと気が付いた。そういえば現行の車種で直6の車種が無い。調べてみたが国内では無し、海外でもほぼ全てが直4かV6に以降している。見つけた範囲ではBMWくらいか。

 一般的な4ストロークエンジンではクランク2回転で180度ごとに吸入>圧縮>爆発>排気の4工程をこなす。爆発間隔は720度だ。次に、これを2気筒にすることを考える。直列に並んだ二つの気筒が交互に上下…はしない。720度=2回転ごとに1爆発なので、等間隔で爆発させることを考えると720/2=360度、つまり二つの気筒は同じタイミングで上下する。直列4気筒はこれの発展である。両端に1気筒づつ追加し、内側の2気筒と外側の2気筒がそれぞれ同じ動きをする。爆発間隔は1-3-4-2もしくは1-2-4-3となる。つまり4工程を180度ごとに分けるわけだ。180度なのでクランクシャフトは平面上になる(クランクピンが同一平面状に並ぶ)。

 一見、素人目には釣り合っているように見える4気筒だが、実際には全体の慣性力が不均衡で上下方向の加振力が生まれて振動する。クランクシャフトのクランクピンの部分はクランク中心からオフセットしており、コンロッドを介してピストンを上下させている。クランクが上死点0度から90度に回転した時点でコンロッドは傾いており、この時点でピストンは有効ストロークの半分以上下がっている。つまり、ピストン上下のスピードはクランクの回転に対して対称ではない。従って、慣性力は角速度で一意に表せないことになり、フーリエ級数展開すると2次以降の成分が存在することになる。多気筒エンジンの場合、1次成分はバランスさせるが、主に倍次成分の不均衡が問題で振動が起こる。

 では3気筒ならどうか。720/3=240度ということで、各気筒のクランクピンは120度づつずれた配置となる。ここで大きな問題となるのが慣性偶力(単語違うかも)だ。クランクシャフト、コンロッド、ピストンを含めた系の重心は2番シリンダ付近にくるが、そうすると重心に対して近い2番シリンダよりも、そこから遠い1番3番の方が慣性力を強く発揮できる。この不均衡により、クランクの回転ごとに前後に倒れこむような回転モーメントがかかってしまう。振動は1次成分からバランスしていないので、結構大きな振動となる。これに該当するのは3気筒のほかに(あまり見かけないが)直列5気筒、それに3気筒を2つ束ねたV型6気筒。つまり気筒数が奇数だと問題になりやすい。

 コンロッドによる振動。そもそものマスが小さいし、カウンターウェイトで打ち消したり、影響は少ない部分だが、一応回転ごとに左右に振れるので振動の原因となる。この左右の振れはクランクの回転と完全に同期するので、平面クランクの直4、直8、直4を二つ束ねたV8では問題にならない(打ち消しあう)。120度の直3、直6、144度の直5、などではそれぞれ3次、5次の振動が発生する、らしい。60度バンクのV6の場合、クランクピンを共有する向かい合う気筒で、互いに打ち消しあうので振動は発生しない。

 水平対向について。たまにバンク角180度のV型と勘違いする人もいるが、向かい合った気筒でクランクピンを共有するV型と違い、水平対向は向かい合った気筒で180度ずれたクランクピンを持つ。動作は対向するピストンが向かい合ったり離れたりするのでこの時点で慣性力は釣り合っている。水平対向6気筒は先述の慣性偶力の影響もすくなく、ヘッドが両端についているので動弁系に由来する振動も少ない。吸気ポートの設計自由度が高いうえに低重心、クランクの全長も短くできると、理論的には極めて優れた設計である。

 スバノレ儲 とか言われるのは癪に障るのでネガも書いておくと、まずV型と違ってクランクピンが気筒数分必要で直列の半分のクランク長しかないので、クランク強度とその加工精度が大きな問題となる。エンジンは短く低重心だが左右に広いので、エンジンルームのかなり前方でないと配置しづらく、ヨー慣性モーメントが大きくなりがち。離れたヘッドから排気管を取り回すので等長配管にしづらい。クルマに使うには4駆にするしか使い道の無いエンジンだと思う。4駆にするとエンジン>ミッション>フロントデフ>センターデフ と左右対称、一直線に並ぶので理想的なレイアウトである。世の中横置き6気筒だとか縦置きミッドシップだとか、そういう変態的なレイアウトのクルマもたまに見かけるが。

 そんなわけでいいかげんまとめに入ると、2と3の倍数である直列6気筒エンジンは振動が少ない。コンロッドやバルブの振動は不利だけど、影響の少ない部分だし。現在ほとんど姿を消しているのは、ひとつには防音や振動対策が進んで高級車でもV6で良くなったこと。さらに、直6は全長が長く幅が細く背が高い。ボンネットに収める都合上、立方体に近い形状のV6の方が衝突安全性にも優れているし、全長が短いので4駆にするにも駆動系の配置が楽。ターボ化でも、V6なら片バンクごとに1つづつタービンを置いてツインターボにすると左右対称で場所も取らない。直6は回転バランスには優れるが高回転に強いわけではなく、クランクの捻れ剛性の問題で高回転化には限界がある。それでも、”シルキー6”を旗印に直6最後の砦をなったBMWにはエールを送りたい。

 追記。直6は慣性偶力も2次振動も打ち消せる。 爆発間隔は1-5-3-6-2-4  ピストンの上下速度非均等による振動だが、ものの本によると、 クランク半径(ストロークの半分) r、コンロッド長さ l、 ストローク中央を原点とするピストンの位置 x とする。 ρ = r/l と定義すると、一般に 1/3 < ρ < 1/5 であり、

x = r cosθ + l sqrt(1 - ρ sin^2θ),

となる。これを展開して、ρの 5 次の項まで書くと、
x/r = cosθ
+ [ρ/4 + (ρ^3)/16 + (ρ^5)/512] cos 2θ
- [(ρ^3)/64 + + 3(ρ^5)/256] cos 4θ
+ [(ρ^5)/512] cos 6θ,

となる。次数が高くなると無視できるような数値だ。 うろ覚えなんでどっか間違っているかも知れんが。


 ま、3気筒656ccの俺には関係ない話ですがね。

IMG_0671a.jpg

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コメント (1)

匿名:

大変参考になりましたm(__)m

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2006年09月01日 03:02に投稿されたエントリーのページです。

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